デジタルカメラWEBマガジンデジカメの教科書
TRISEC International,Inc.
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ここに2本のレンズがあります。一眼レフ用のレンズです。
どちらも同じメーカー、キヤノンの製品です。
筆者の自前ですので、かなり古い製品になります。(ごめんなさい)
さて、この2本のレンズ、どちらが高級なレンズでしょうか。
どちらも望遠ズームです。
しかし、左の小さい方が、望遠の拡大率が大きいのです。
小さい方が80mm〜200mmです。
大きい方は28〜70mmです。
小型でコンパクトだから左側のレンズの方が高級?
いやいや、大きい方がプロッぽいから右側の方が高級?
どちらでしょうか?
正解は右側、大きい方です。
右側はプロがよく使用しているレンズです。
コンパクトな携帯性、望遠ズームの拡大率など、一見するとどう考えても左側の方が高級なレンズのように思えますが、右側の方がはるかに高級なレンズなのです。
見た目ではレンズの性能や価格は全く解らないですね。
右側のレンズが高級である大きな理由のひとつが
「F値が低くて、明るいレンズ」だということです。
ちなみにはそれぞれのズーム性能とレンズのF値は
左側のレンズ(小) | 80-200mm | F4.5-5.6 |
右側のレンズ(大) | 28-70mm | F2.8 |
です。
前回は、
1.F値が少ないレンズほど明るいレンズである
2.明るさについて言えば、F値が少ないレンズほど性能が良い
3.F値が少ないレンズやカメラほど、写真のブレが少ない
という話しをしました。
今回は、そのあたりをもう少し詳しく解説しましょう。
プロが使うレンズはなぜ高い? F値と明るさと価格の関係
1.F値が少ないレンズほど明るいレンズである
カメラと撮影技術を知る上で、F値には2つの意味があります。
ひとつは使っているカメラのレンズの最大の明るさを示す数値、ちょっと難しく言うと、絞りを完全に開いたとき、絞り開放時の明るさを示し、それはすなわち、"明るさ"について言えばレンズの性能を表わす数値ということです。
もうひとつは撮影時の絞り値のこと。これも写真の露出、すなわち明るさに関することなんだけど、撮影術についてはまた後日、ゆっくりと解説しますね。
2.明るさについて言えば、F値が少ないレンズほど性能が良い
もともとカメラやレンズの「性能」というのは明るさ「だけ」ではかるべきものじゃあありません。しかし、カメラやレンズの性能をみる上で「F値」はとても重要な要素になります。
ちょっと脱線しますが、もし自動車のカタログに「最高速度」という数値が載っているとしたらどうでしょう。かたや(時速)300km/h、もう一方は200km/hだとします。スピードマニアの人が見れば、300km/hのクルマに魅力を感じますし、サーキットで実際にそのスピードで走りたい、と思うでしょう。また、実際に300km/hで走らない人でも、それだけ走れるエンジンなら、高速道路でも街乗りでも、余裕を持って気持ち良く走れるだろう、とそのクルマをチョイスするかもしれませんね。つまり、時速300km/hという数値は高速性を重んじる人には性能が良い、と判断して然りな要素であるわけです。
しかし、クルマの魅力はスピードだけではありません。居住性だったり、乗車定員だったり、燃費だったり、四輪駆動であることに魅力を感じる人、と様々です。それでいいのです。
これをレンズに置き換えてみると、明るいレンズというのはプロカメラマンやハイアマチュアの一部の人には「高いお金を出してまで欲しい」と思わせる要素のひとつ、魅力のひとつなのです。
しつこいようですが、もうひとつ事例からみていきましょう。
ここに3つのレンズ製品があります。
一眼レフに装着するために市販されているレンズです。
いずれもメーカーはキヤノンです。
レンズ名称 | 希望小売価格 |
EF70-200mm F2.8L IS II USM | 300,000円 |
EF70-200mm F4L IS USM | 158,000円 |
EF70-300mm F4-5.6 IS USM | 68,000円 |
※製品名をクリックするとアマゾンでの実売価格が確認できます。
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レンズ名称の最初の数値はズームの望遠を示しています。上の2つはいずれも70mm〜200mmの望遠ズームレンズです。一番下だけ70mm〜300mmですので、一番下が最も望遠がきく、つまり遠くの被写体を大きく写すことができる性能がある、ということです。
しかし、お値段をみてどうでしょう?
一番上のレンズは30万円もします。
2番目はほぼ半額の安さです。
そして、最も望遠で大きく写せるはずの一番下のレンズの価格は 1/4以下の安さです。
ズーム性能で言えば一番下が最も優れているはずなのに、一番上がスパ抜けて高価・・・その理由のひとつ、というか大きな理由がF値なのです。
一番上のF値はF2.8、二番目はF4、
一番下はF4〜F5.6です。
これがF値が生み出す価値なのです。
もちろん、高いレンズと安いレンズでは「F値」だけでは語れない違いがありますが、あえて解りやすく、このような比較をしてみました。
ちなみに、ここで紹介したキヤノンのレンズ、高級なモデルは白いレンズボディが目印になっています。サッカー中継などで報道カメラマンが撮影する姿が見られますが、白いボディのレンズを装着している人が多いと思います(ニコン派の人は黒)。動きの早いスポーツ写真を撮るのには、少しでも早いシャッタースピードで撮りたい、そのためには明るいレンズに価値が出るのです。
・コンパクトデジタルカメラもレンズをチェック
本来、コンパクトデジカメについてもレンズ性能はとても重要な要素です。しかも一眼レフのように後からレンズだけ交換することはできません。だからむしろ、コンパクトデジタルカメラこそ、機種選びをするときにF値は注目したい点なんですね。
レンズ資料と製品画像 キヤノンEFレンズ 製品ホームページより
ところで、「EF70-200mm F4L IS USM」158,000円と「EF70-300mm F4-5.6 IS USM」68,000円は同じF4なのにどうしてこんなに値段が違うのだろう? と疑問に感じる人もいるでしょう。
一番下、「EF70-300mm F4-5.6」の意味は、70mm〜300mmの望遠ズームができますが、F値は70mmのときがF4、300mmの超望遠にしたときはF5.6に落ちてしまいますよ、という意味です。
一方、「F70-200mm F4」の意味は、70mmでも200mmでもどんなズーム(焦点距離)を使っているときも「F4」ですよ、という意味でこれを「全域でF4」とか呼びます。
レンズを開発する上でこの違いが実は大きいのです。
「望遠側にズームすれば暗くなる」というのは言わば当然のこと、それを全域で明るさが変わらない、しかもクリアなレンズを作る、というところはメーカーの技術の見せどころなのです。生産にも精度が要求され、手間もかかかります。
特に「全域でF2.8」はニッパチと呼ばれ、一眼レフ用のズームレンズとしては明るく高性能、だから高価とされている分野なのです。
さて、お手元の・・ご自身のレンズを見てみましょう。下の写真は冒頭に登場した小さい方のレンズです。一眼レフの場合、このようにレンズの枠や周りにズーム倍率やF値が書いてあるんでしたね。この例の場合は、ズームが80mm〜200mm、遠くを撮るのにも便利な望遠ですね。そしてF値は、比較的近くを撮る80mmにしているときはF4.5ですが、望遠の200mmではF5.6とやや暗くなります。
おや?
「EF70-300mm F4-5.6」を使っている場合、70mmのときはF値がF4でも、300mmの超望遠にしたときはF5.6に落ちてしまうということは、望遠を使う方がブレが出やすいということ?
そう思った人は鋭い!!
そうなんです。なんでも望遠ズームでちょちょいと寄ればキレイな写真が撮れるってものでもないんです。
次回以降はそのあたりにも迫ってみましょう。
今回は「キレイな写真を撮りたいならF値と明るさで選ぶ」という考え方もある、というお話しでした。次回もお楽しみに♪
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デジタルカメラの選び方
序章 デジタルカメラの選び方 きれいな写真が撮れるカメラを見分けるポイント
レンズ選びとF値
1. レンズのF値とは? カメラのf値ってなに?
F値で明るいレンズのカメラを選ぶ方法
〜カタログからF値を読み解き、レンズの明るさ性能を知る〜
2.レンズの価格はf値で決まる?
キレイな写真を撮りたいならF値と明るさで選ぶ
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